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葬儀と告別式 ①

葬儀と告別式の本当の意味

葬儀のもとをただせば、昔から仏教では「屍を蔵する」の意味であるということになっていて、そのことを日本では「はふり」とか「とぶらひ」といっていました。そしてこの亡くなった人の遺体を「とむらう」儀式のことを葬儀とか葬式といっております。この他に葬礼、葬送などともいいます。以前は「葬儀」と「告別式」とを分けていましたが、告別式とは読んで字のごとく、亡くなった人の霊に対してお別れをする儀式のことであるので、現代においては葬儀と告別式とを続けて一体の儀式として行うのが一般的です。


現在の科学では、生命というものは一体どこでどう始まったものか、また死を迎えたときにはどこへ行くものか、そしてそれは死と共に無くなってしまうものなのか、または形を変えてどこかに行くものなのか、というような疑問について未だにいかなる科学分野においても解明されていません。


昔から、人類はこの「死」という現実にぶつかって考えた末、色々と遺体を葬る方法を考えてきました。その方法を見ますと、人間が死を迎えると天空、宇宙、大地、大海というようないわゆる「大自然」といっているものに生命は帰っていくのだろうと考えていたのではないでしょうか。「葬」という文字を見ても、草と草との間に死と書くのも自然の大地にかえっていくことを表しているといわれています。


人類の歴史始まって以来、世界の各地での葬儀を見ますと、土葬、火葬、水葬、林野葬の四つに分けられ、土葬というのは土の中に埋め、火葬というのは遺体を焼き、水葬は海や川に流し、林野葬というのは、遺体を林や原野に置いて自然に還し、鳥や獣の餌食とする方法であります。この林野葬の中には現在でもインドなどにおいて行われているゾロアスター教の「熊鷹」に遺体を食べさせる鳥葬も入ります。


これらを見ますと、その方法は色々違っているように見えますが、これらの方法はいずれにも共通しているのは、人間の考えや力の及ばない「大自然」の中へ、生命と肉体を送り返そうということです。本来は、「生命のいずこより来り、いずこに去るや」も、知ることのできなかった人類が、色々最高の知恵を絞った末に考えた方法であり、この根本は国や宗教を問わず同じです。


そしてこの葬儀本来の考え方が、時代と共に人類の科学・文化・生活様式の発達や変遷によって移り変わり、ひとつの形をとって、現代に受け継がれているのが、今の「葬儀」と「告別式」です。ですから、この本来の意味からすれば、葬儀で一番大切なものは、死者をこの宇宙の大自然の中にお送りするという“誠実な心”であって、形式はそれをあらわし、助けるためのものであることを心得ておかなければなりません。


近頃は葬儀をせずに火葬だけで済ましてしまう「直葬(じきそう)」というものが増えつつありますが、特別な事情を除き、自分達の都合を最優先して安易に葬儀を簡略化することは、故人や残されたご家族にとっても良いものではありません。



臨終を迎えたらどうするか

(1)臨終―菩提寺への連絡―近親・知人への連絡―葬儀社への連絡


息を引き取る直前、つまり「臨終」に間に合った人は、故人に近しい人から順に末期の水をあげます。地方により、また亡くなられた状況等により作法や順序は違いますが、末期の水とは故人の口を軽く水で濡らしてあげることをいい、たとえば病院で亡くなられた場合はご遺体を自宅等へ安置し、綿棒や新しい筆や、樒(しきみ)の葉などに水をつけて行います。


亡くなられたら、まず第一に菩提寺に連絡します。一番先にお寺へ通知するのは、人生において臨終の正しい「念」というものが一番大切であるからで、一刻も早く正しい菩提を弔うため、冥途への第一歩のお経である「枕経(臨終経)」をあげてもらうためです。


現在では火葬までの日数により通夜とあわせて行なう場合もあります。葬儀社を頼む場合は日頃縁のある葬儀社があれば、そこが良いでしょう。もしなければ周囲の経験者、つまり親戚、遺族、友人の信頼できる人にも聞いた上で、信用のある葬儀社に連絡いたします。葬儀社をきめる場合は、最近ではインターネット等でも簡単に検索できますが、安易に価格だけで選ばず慎重におきめください。ただし地方によりましては、葬儀社を頼まないで、その町村や、町内会などの単位で葬儀に関する一切のことを仕切ってくれるところもあります。


病院で亡くなった時には、各病院専属の葬儀社がいますが、必ずしもその葬儀社に頼まなくても、他に縁のある葬儀社があればそちらに任せても構いません。分からないことがあれば、何でも菩提寺に相談することが良いでしょう。同時に臨終に間に合わなかった近親の人や、また生前故人と特別に縁の深かった人、親交のあった人などに、電話などできるだけ早く、亡くなったことを知らせます。


尚、その他の親族、知人、友人等の縁者への連絡は、葬儀社の協力によって、役所や火葬場との手続きをすると葬儀の日時が決まりますから、その後で直ちに通知状を出します。これは、通常私製ハガキで文案も大体決まっていますから、葬儀社に頼むのが早くて良いでしょう。
新聞広告を出す場合とか、また特別に新聞の死亡欄に載せるときは、新聞社のその係の方と電話で相談してみることです。


湯灌(ゆかん=ご遺体を温湯で清めること)につきましては、昔はたらいに水と湯を入れてごく近親の人だけで行ったり、また地方によっては近くに清流があると、その川でするようなこともありましたが、現在ではお医者さんが指示し、アルコールで体を清め、鼻や耳などに綿を詰めます。病院ではこれらの処置を看護師さんがしてくれます。その後、顔に薄化粧を施し、清潔なを左前に着せます。信仰の篤い人は、生前からこの白衣の経帷子(きょうかたびら)を用意して、菩提寺に頼んで経文やお題目を書いてもらったものを、この時に着せてもらいます。その他、頭巾、手甲脚絆、白足袋、草履、頭陀袋など(いわゆる死装束)をつけ、数珠も入れます。



(2)喪主と世話人


次に続けて行なうことは、亡くなった人の葬儀の責任者、つまり「喪主」を決めることです。
それは遺族の代表であり、多くの場合は長男が喪主となっていましたが、現在では必ずしも長男でなくても、故人の夫や妻、或いは特別の事情のある場合などは、故人と近い関係のある人の中から選んで、決めます。
葬儀のことを最終的に決めるのはこの喪主ですが、故人に一番近い当事者でもあり、悲しみに打ちひしがれていますので、喪主とは別に一切の式を取り仕切る人を決める場合もあります。


この人は、親戚や故人の近縁知人の中で、信頼できる人か、またはその町村等のしきたりなどをよく心得ている人を選ぶことで、これには一人でなく、式の大小により適当の人数があたることもあります。この人々の役目の名前は、「世話人」とか「葬儀委員」とか「葬儀委員長」でもよいわけであります。いわばこの役目は、葬儀一切の総指揮者であります。



(3)菩提寺への依頼 


臨終を迎えたらまず菩提寺に連絡し、枕経をあげてもらい、その後菩提寺の住職と相談して、通夜・葬儀の日程を取り決めていきます。
通夜・葬儀の導師は菩提寺の住職が勤めます。また、導師の両脇等に座って読経する僧侶を役僧といいます。役僧を頼まず導師ひとりで行う式もあれば、役僧を数名頼んで行う大きな式もあります。また、当日会葬する親戚や知己友人の中に僧侶の方がいる場合は、祭壇に向かって左右奥、いずれかの場所に座ってもらいます。これを「諷経席」(ふぎんせき)といいます。



(4)死亡届・火葬埋葬許可証


手続きとして、まず一番先にやることは、医者から「死亡診断書」をもらい、それぞれ市区町村役所へ「死亡届」を出し、火葬の手続きをします。そこで「火葬、埋葬許可証」をもらい、これを葬儀当日に火葬場に出し、またお骨を納める時に、墓地を管理するお寺や墓地管理所に出します。
現在ではこの手続きは葬儀社が代行してくれます。


(5)葬儀の日取り


葬儀の日取りは、普通亡くなった日の翌日行われることが最も多いのですが、亡くなった時刻が午後遅く、例えば夜などの場合には翌々日となります。それまでにいろいろの準備が十分できないということもありますが、その事よりも、墓地埋葬等に関する法律により、死亡後24時間経たないと火葬することができないためです。


この場合、まず予定の日について、菩提寺の都合を聞くことと、火葬埋葬許可証をもらうことが第一です。また「友引」の日には葬儀をしないという考えは、現在全国的に広がっていています。


それではこの「友引」には一体どんな意味があるのかというと、「友を引くから」、「亡くなった人が親しい人をあの世に招きよせる」というような意味をつけて、特にこの日は葬儀を避けることが多いようです。
しかし、「友引」の日に葬儀を避けるということは迷信からきており、本来はあまり意味のないことですが、これを目安にしている地域もありますので、どうしても「友引」に葬儀をしなければならない時には、菩提寺や葬儀社、親族に相談の上で行なうと良いでしょう。なお、火葬場によっては「友引」を休日にしているところもあります。



(6)密葬と本葬と家族葬


色々な事情により、亡くなった直後に葬儀を執り行うことができない場合には、とりあえずごく近親の人だけで「密葬」執り行うことがあります。この場合、更に後日、改めて広く縁者知人友人等に案内をして葬儀を行います。これを「本葬」といいます。
また、近年は近親やごく近しい友人だけで行なう「家族葬」も増えております。



(7)葬儀の順序


本宗の葬儀の進行次第の一例を、大まかに挙げると以下のようになりますが、地域や菩提寺の習わし等によって違いがあります。

前日-お通夜

当日-葬儀・告別式
①入場(遺族親族が着席した後、僧侶が入場)
②開式
③読経
④引導文(導師より故人に「法号(戒名)」が授けられる)
⑤読経・焼香(喪主・遺族・親族・会葬者)
⑥立礼(喪主または葬儀委員長が、一般焼香台の手前横等に立って、会葬者に御礼の会釈を行う)
⑦閉式
⑧退場(僧侶が退場)
⑨挨拶(喪主また葬儀委員長)
⑩出棺(棺に供花・思い出の品を入れる)
⑪火葬
⑫収骨


(8)お通夜


普通は葬儀の前日の夜に、故人の御遺体をまもっておつとめをすることで、「夜とぎ」ともいわれています。死亡の時刻が午後遅くですと、死後24時間以内には火葬できないというきまりにより、葬儀の日を一日延ばして、死亡の翌々日にしますが、その時には正式のお通夜を死亡した翌日の夜に行い、死亡当日の夜はごく近親者だけで故人をおまもりします。これを「仮通夜」、「仮よとぎ」といいます。


お通夜とは読んで字のごとく、夜を通して故人をまもるということで、夜通し故人のそばでおつとめをし、故人と最後の時を過ごすことです。この夜通しで行うお通夜を丸通夜(まるつや)といいます。近頃は夕方の18時か19時頃から読経回向があって、
19時から20時頃にお通夜が閉式し、この後お礼の意味のご供養(食事)ということで、簡単な茶菓やお酒、食事などが出て、故人の思い出話などで時を過ごし、一般の方は帰宅されます。これを半通夜(はんつや)といいます。


最近では、仕事の関係などで、告別式に出られない方が、代わりにお通夜に出るという場合も多くなりました。この後は、近親者だけで、灯明と線香を一晩中絶やさないようにして過します。ただし家族親族全員が一晩中起きていては、翌日に差し支えますから、交代して寝るようにいたします。


お通夜の弔問は喪服でなくてよいですが、あまりきらびやかな服装は慎むのが礼儀です。お通夜の席の座り方には特にきまりはありませんが、喪主と遺族は弔問を受けやすいような場所に座ります。(葬儀場で執り行う場合は、葬儀場の担当者より説明があり、あらかじめ席が設けられます)弔問者は、受付で香典や記帳を済ませ、司会者・関係者からの誘導にてご霊前に進み、お焼香をします。その後、遺族に挨拶をして席につきます。


一般的にお通夜のお悔やみの言葉は、あまり長くなく、言葉少なに心を込めていうべきで、またこれを受ける遺族側の挨拶もまた同じです。
おつとめの後のご供養は、昔は肉や魚をさけた精進料理を使ったものですが、今日ではお茶だけの場合や、お茶とお菓子の場合もあり、また料理の材料はこだわらないで、手軽なお寿司やサンドイッチ、折詰などを出す場合もあり、お酒をそえることもあります。これはその家によって色々ですが、本来ご供養ですから、これらのうちどれでもよいと思います。


 〈顕本法華宗 法式研究所〉

“仏事あれこれ”については、総本山妙満寺第302世貫首 古瀬堅徳(日宇)猊下(1917~2003)著書、『法事と戒名のすべて』(有)技興社発行を参考に掲載しています。

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